2016年3月7日月曜日

雨の日の出来事 vol.2 あの頃に戻り始めた街

河口さんと飲むのはいつ頃ぶりになるだろ・・・・。そのことも考えたが、それよりも当然尋ねられるだろうこと、何しにここに来たの? 勘ぐられない程度の適当な答えを考えていた。

駅から歩いて5,6分で着いたのは、本通りから奥に入って何回か曲がった細い道の脇にある小料理屋だった、時間も早く、まだ開店してないらしい。河口さんは、お構いなしに扉を引いた 「 早いけどいい?」 ビールをケースから冷蔵庫に移し換えている最中だった女将さんは、こっちをチラッと見ただけで何も言わず、表情も変えないで空いた片方の手でカウンターに座るよう促した。

河口さんは、気に入った店に数回でも通うといっぱしの常連のように振舞うところがあった、この店でもそのような感じで馴染んでいる。後からの言葉で、女将さんは、自分の奥さんの妹さんだということ・ら・し・い・・・・。

カウンターにビールと飲み口の薄いグラス、それと頼んでもいない数品の小鉢が並んだ、飲み始めて程なくして、道すがら考えた答えを言ってみたが、反応は、ただの 「ふう~ん・・・・」 だった。
河口さんは、言葉を続けて、20年ほど前に仲間同士で出資して地元で始めた海産物系の卸し業の経営が、ここ数年、赤字を出さないまでも厳しいこと、最近では、会社をたたむことしか考えてないこと、そして、奥さんが病気がちで入退院を繰り返していることなど話してくれた。

10人ほどが入れば一杯になってしまうだろうこの店にシンプルなデザインの暖色系の照明に明かりが灯り、女将さんが渋めの海老茶色で染めたのれんを出した後、カウンター越しに2人の話しに参加して来た。

開店の前にもう一度丁寧に櫛を通したらしい髪を上げてアイラインを強めに引いた雰囲気は、決して派手ではないけど女優の名取裕子さんに似てる感じで、

河口さん 「 そうそう、ゆうこもあのビルのアクセサリーでバイトしてたよな?」 ゆうこさんと言うらしい・・・・
女将さん 「 そうね・・・・ 私が新宿の東京モードに通ってたときだから・・・・」

そう言えば・・・・ 当時は、地元の高校生、短大生やら大学生が各テナントで入り乱れて仕事をしていて、ある意味でバイト天国って感じだったな・・・・。

女将さん 「 あっ それと、あのビル、最近、改装したんだってね 」

これほど駅の近くで商売をしていて 「 したんだってね 」 って言葉に不思議な感じがした。
・・・・ to be continued

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